2012年07月02日
「指揮官は絶対にうろたえてはいけない」~致知~
『致知』2012年6月号 特集「復興への道」より
村井嘉浩(宮城県知事)
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私自身は今回の震災に際して心に決めていたことがあります。
こうした非常時には、大変ストレスがたまるものですけれども、
私は県のトップとして、自分のマイナスの感情を
絶対に外に出さないようにしようと決めておりました。
辛くて涙が出そうになる場面が何度もありましたけれども、
私が高ぶった感情をそのまま外に出してしまうと、
組織が混乱してしまいます。
私が防衛大学校にいた時の校長先生が
土田國保先生という元警視総監の方でした。
土田先生は警視庁の警務部長をされていた時、
贈り物を装って自宅に送られてきた
爆発物によって奥様が亡くなり、
息子さんも大怪我をされたことがあるんです。
土田先生が朝礼で部下からその報告を受けた時の
お話をなさったことがあるのですが、
私はそのお話がとても印象に残っているのです。
土田先生は、
「君たちはいずれ、部下や家族の突然の死というものに
直面する機会があるかもしれない。
また有事の際は自分の組織が全滅することもあるかもしれない。
その時に指揮官は絶対にうろたえてはいけない」
と前置きをされて、ご自身のご家族が
事件に巻き込まれた時のことをこのように話されました。
「自分がその報告を受けた時、正直、足がガクガクと震えた。
しかしここで自分が震えているところを見せたり、
うろたえたり、涙を流したりしていると、
部下がどう対応をしていいのか分からなくなってしまう。
だから自分はその時、お尻の穴をくっと締め、
下腹にぎゅっと力を入れて、大きく深呼吸をした。
そしてすっと立ち上がって、
これからどう捜査を進めるか指示を出した。
いざという時の参考にしてほしい」
と。お話を伺いながら私もお尻の穴をくっと締めて、
下腹に力を入れ、大きく深呼吸をしたことを
いまでもよく覚えています。
今回の震災では何度かそういう厳しい場面に直面しました。
その度に先生のお話を思い起こして実践したのですが、
不思議と心が落ち着いて冷静に対処できたんです。
そのことも含めて、私が防衛大、自衛隊に在籍して
訓練してきたことが震災では随分役立ちました。
若い時の苦労は買ってでもせよと言われますけれども、
厳しい訓練を受けてきて本当によかったと思います。
もう1つリーダーという立場の重要性を
実感させられた体験があります。
自衛隊の時に私は小さな部隊にいたんですけれども、
不思議なもので、指揮官が代わると
隊員は変わらないのに部隊の雰囲気がガラリと変わるんです。
暗い部隊だったのに急に明るくなったり、
前向きになったり、なんでも議論ばかりして
前に進まない組織になったり、
指揮官の性格がそのまま部隊に反映されるのです。
私はそれを見て、リーダーのあり方は
本当に重要だと実感しました。
Posted by 木鶏 at 21:00│Comments(0)
│致知(リーダー論)