2012年06月19日
【闇から光へ】~独語~
6/3再放送のNHK日曜美術館
「孤独 闇 そして光を~鉛筆の画家・木下晋」を観て、
大いに感じるものがありました。
木下さんは、20ほど硬度の違う黒鉛筆だけを使い
緻密な人物画を描かきます。その絵は観る者に圧倒的な
迫力で迫り、海外からの評価も高いそうです。
64歳の木下さんが描くのは、ホームレス、認知症の老人など
社会の闇に追いやられている人々の姿です。
人間の孤独や闇と向き合う画は黒鉛筆だからこそ、
モノクロ写真のように対象(人間)の奥深い部分、
そこに秘められた闇と光を強く浮かび上がらせます。
そうした人々を対象にして深く見つめようとするのは、
木下さんが子供の頃に経験してきた家庭の不遇さが
大きく影響しているのでしょう。
幼少時から夫婦喧嘩が絶えず、母親はその度に
家出を繰り返し、時には2.3年は帰って来ず
ほとんど父親の手で育てられました。
中学3年の時には、その父も事故で亡くなります。
「母親を頼む」が父親の遺言でした。
それから極貧を味わうことになります。
後年、結婚した木下さんは母を引き取り、
亡くなるまでの17年間同居します。
今春、木下さんは大作に挑んでおりました。
去年亡くなったハンセン病の詩人・桜井哲夫さんの肖像画です。
世界でも最も重度の後遺症といわれた桜井さんは、
両目の失明、両手の指欠損など重い宿命を背負いながら
生きてきました。
木下さんは、そんな桜井さんと長年交流を重ね、
療養所で生きる桜井さんの姿を数々描いておりました。
この番組の中で、その集大成となる作品が完成します。
左斜めから顔をアップにして指の無い掌を合わせる
桜井さんの姿です。
重度のハンセン病であったため、外見はひどい火傷を
負ったかのように変容してしまっております。
しかし、その祈る姿はとても美しく、尊いもののように
感じてならないのです。
光りが指してくる方向の顔と手の輪郭は淡く溶けています。
闇を抱えつつも純粋に光へ向かう生き様が、
そこに見えるのです。上手く表現されています。
当時、療養所と称した隔離施設に連れてこられた患者の
多くはその悲惨な扱いに絶望し、自殺する者が後を
絶たなかったらしいです。そのような状況の中でも、
桜井さんは、ここを自分の「まほろば」にして
生きようと、家族などの過去を振り切り、
すべてを受け入れる覚悟を決めたのです。
それこそ、一枚の絵から感じ取れた
「闇から光へ向かう生き様」
そのものだったと思います。
暗く細い闇の道を、実は誰にでも用意されている光へと
諦めずに歩き(生き)切った人生は、大いなる修行を
果たした人生と言えることでしょう。
画家の木下さんも捉え方は、私とは違うかも知れませんが、
桜井さんの生きる姿に闇の中で輝く本質的な光を
感じ取って、その強さに惹かれたのかも知れませんね。
※まほろばは、「素晴らしい場所」「住みやすい場所」
という意味の日本の古語。
Posted by 木鶏 at 21:00│Comments(0)
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